目次
鉄道模型用電源事始
Dec 24, 2001.
太古、鉄道模型はゼンマイを動力として運転されています。鉄道その物が実用化されたのは1800年代前半のことで、概ねそれとあい前後して鉄道模型を作られるようになっていますから、最初の鉄道模型が出来(しゅったい)したのは1830年代頃の話と考えて間違いありません。1800年代も後半になると電気動力の、すなわちモーターを回してこれを動力源として使用する鉄道模型が現れます。
ところがこの時期の鉄道模型は家庭用の電灯線電源をそのままレールに繋いでしまおうと言うもので、レールには220Vや100V程度の電圧がそのまま掛かっています。今にして思えば随分と危険極まりない代物ですが、この当時は鉄道模型は未だ一般に普及するに至らず、ごく一部の王侯貴族大富豪にのみが買い求められる商品でしたから、子供用の鉄道模型であったとしても運転係の召使にでも操作させておけば済むことで、そのせいもあってか随分と大胆不敵な設計が許されていてのでもありましょう。
それでも220Vそのままとは余りにも危険であることには相違ないので、トランスを使って、生命に危険の少ない20V程度まで電圧を下げて使おうと言う機運が生まれてきます。恐らくはこの種の低圧電源を鉄道模型にはじめて導入したのはドイツのメルクリン兄弟商会でしょう。1800年代末期から1900年代初頭に掛けてのことです。
また、自動車やラジオの普及に伴って一般的になりつつあった鉛蓄電池などを使って直流で運転しようと言う気運も生まれてきます。自動車は当然電池を載せていますが、この当時のラジオは真空管式でヒーターを加熱するための低圧電源(いわゆるA電源)は電池が多用されていたからです。A電源として実用になるほどの大容量の半導体が実用されていなかった状況を考えれば、蓄電池の使用を考えるのは当然の帰結と言えましょう。また、家庭用に直流が配電されていた地域もあったと言うことも関連するかと思われます。例えば、東京府内では神田区周辺などは直流配電の地域です。
このような事情のために戦前の鉄道模型は概ね直流6Vで運転されるものなどが多かったようです。申すまでも無く、6Vとは蓄電池や乾電池のセルを複数個直列にした際に得られる電圧に等しいです。やがて、直流二線式の場合の最高電圧は12Vに定められます。
大まかですが、以上が電源周りを巡る鉄道模型の歴史的な流れに関する話です。
トランスとは
Dec 24, 2001.
「トランス」の正式?な名前はトランスフォーマーですが、普通に日本国内では「トランス」と省略して呼んでいます。トランスには二つの意味が有り、一つは一般的な電気部品としてのトランスとは「変圧器」の事で、交流電源の電圧を下げる為の本来の目的でつかわれる機器です。もう一つの意味としては鉄道模型用語として「トランス」と言った場合で、ライオネルやメルクリンなどに使用されるトランスの場合です。
上述の本来の意味でのトランス以外に、車輛の逆転機を動作させる為に必要な仕掛けや、Oゲージ用であれば汽笛を鳴らすスイッチなども装備されています。これらの仕掛けまで組み込んだもの全体を「トランス」と表現する場合があり、このコンテンツで取り上げるのはこちらの「トランス」の方です。
ライオネル製品などの、Oゲージ用トランスに最低限必要な機能は
- 車輛の速度を変化させる→電圧を調整する
- 車輛の進行方向を変化させる→電動逆転機を動作させる
と言う事です。電圧を調整するのに一番簡単な方法は、複数の電圧の異なる二次巻線を出した所謂マルチタップのトランスを用意しておいて、ロータリースイッチ式に二次電圧を変えて行く事です。古いカツミとかのOゲージ用のトランスとかはこの種の構造でしたからご存知の方もいらっしゃると思います。
但し、マルチタップのトランスでは電圧を切り換える際に一瞬電圧が途切れるのでその都度車輛がガクガクと動いたりして余り実感的ではないし、段階的にしか車輛の速度を変える事ができなくて面白くないので、もっと高級な(=と言うか“まとも”な)トランスでは、無段階に電圧を調整できます。更に新しいものになると、純電子的に交流の電圧制御をするようになります。
一方、電動逆転機(=Eユニットなど)を動作させる為には、トランス側では電流を断続させるだけの事しかしませんから話は簡単です。一番簡単なのは押しボタンスイッチでボタンを押すと回路が切れるようにしておく、ただそれだけで済む事です。同じ交流三線式の鉄道模型でもメルクリン方式の電動逆転機を搭載している車輛の場合は、線路に一瞬ですが23V程度の高い電圧を掛けて逆転機を動作させるのでスイッチの使い方がかなり異なります。少なくとも逆転機を動作させられる電圧用の別のタップはトランスに無いと使い物にはなりません。
パワーパックとは
June 16, 2002.
HOゲージやNゲージなどの鉄道模型は直流で運転されます。この運転に使用するための電源が「パワーパック(Power pack)」です。運転に使用するのが乾電池などのような直流で、車輛への送電に使用するのは車輪が載っているレールそのもの二本を使うのでこのように命名されています。
鉄道模型を運転する最高電圧は模型の種類によって異なりますが、概ね8Vから18Vの間で、電圧を上げ下げすると車輛は速く走ったり遅く走ったりして、プラスとマイナスの極性を変えると、車輛の走る向きが変わります。このような操作をするために「家庭用のコンセントに配電されている交流100Vの電源から、鉄道模型を運転するのに都合の良い直流12Vなどへ整流・降圧」して、し、模型の運転に必要な幾つかの機能を付与した「多機能可変電圧ACアダプター」とも言うべき電子機器です。トランスを使って電圧を下げて、シリコンダイオードなどの整流器を使って直流に整流し、車輛の速度を加減する為にレオスタットなどを使って電圧を上下できるようにし、車輛の進行方向を変えるための逆転スイッチなどを一つのケースに収納した物を指します。

上の図は一般的なパワーパックの概念です。一番左側は家庭用の交流100Vの入力で、一番右側が車輛を運転するための直流12Vの出力となります。一般に回路図は左から右へ電気が流れるような描き方をするのが普通です。
パワーパックの回路全体としての電気の流れは回路図の左から右へ向かって
1:トランスで電圧を下げる
↓
2:交流を直流に整流する
↓
3:レオスタットで電圧を調整する=車輛の速度を調整する
↓
4:逆転スイッチで線路の極性を変える=車輛の進行方向を変える
となります。
「レオスタット」とは最近は余り市販されなくなっていますが、陶器製のボビンにコイルを巻いて作る超高耐入力ボリュームとも言うべき部品です。これ、まともに買うとレオスタットだけで2000円位します。最近ではレオスタットは需要が少なく単価面で不利であったり、消費電流の多い車輛と少ない車輛を一種類のレオスタットで制御することは厄介なので、トランジスタ、FETなどを使って電子的に電圧を制御する機種が圧倒的に多くなっています。
市販パワーパックの実例:カツミのKP-23
Aug 1, 2026.
カツミ模型店の「KP-23」と言うパワーパックです。カツミは百貨店内に直営店が在ったり、入門用セットを多数販売していたせいもあって、セット売り用のパワーパックをかなり製造・販売していました。この写真のKP-23は相当に売り上げ台数の多い代表的な機種で、ヤフオクにもかなり出回っています。但し、未だNゲージが余り普及していなかった時期にレオスタットを使って作った製品なので、Nゲージや、16番(≒HOゲージ)でも最近の消費電流の少ない用には余り向いていません。それと言うのも、抵抗値の低いレオスタットを使ってパワーパックを作ると、消費電流の少ない車輛を走らせるとスロー運転がしにくくなってしまうからです(常時ラビットスタート気味になります)。

カツミ製「KP-23」パワーパック。カツミの代表的なパワーパックと言えます。
市販パワーパックの実例:ニシザワのNP-3
Aug 1, 2026.
西澤工業の「NP-3」と言うパワーパックです。西澤工業は鉄道模型の世界ではパワーパックしか製造していませんが、実は鉄道模型関連では大手と言うべき宮沢模型(と言う名の問屋さん)が取り扱っており、相当に日本国内に流通しています。上述のカツミのKP‐23も同様ですが、ヤフオクの出品数を見ると古い時代の製品シェアが想像できようと言うモノでして、カツミのKP-23と西澤工業のNP-2・NP-3辺りがパワーパックの超ヒット作ではないかと思います。ケースのレタリングを見れば判るとおり、このパワーパックはNゲージ用です。

西澤工業製「NP-3」パワーパック。大手模型問屋の宮沢模型を経由して大量に出荷されていたようです。このパワーパックは余り出力電流が大きくないので機関車を重連にして走らせるような使い方は無理です。元来がNゲージ用なのでレオスタットの抵抗値は高い目で、最近の余り消費電流が大きくないHOゲージ(≒16番ゲージ)の運転に使っても悪くありません。
市販パワーパックの実例:MRCのロコモーション2500
Dec 24, 2001.
MRCのロコモーション2500と言う機種です。クラス分けすると中級機種と言った処でしょうか。面白いのはブレーキスイッチが付いている点でしょうか。どんなスイッチかというとモーメンタリ動作のスライドスイッチで、これを引っ張っている間はブレーキが掛って、離せば緩みます。つまり、実物の車輛のブレーキを掛けたり緩めたりしながら最終的に停止目標に止めるのと同様に、スイッチを引いたり離したりしながら模型の車輛を減速させることができます。

判ってしまえば「な~んだ」と言うことになってしまいそうですが、大してすごい金額を支払わずに、この種のオアソビができるのが嬉しい処です。裏面には普通の電圧可変の直流出力端子のほかに、アクセサリー用の交流出力端子と、出力電圧固定の直流出力端子もあります。
Nゲージ用とHOゲージ用パワーパック
May 1, 2017.
市販のパワーパックには「Nゲージ用」と謳っているものと、「HOゲージ用」と謳っているものがあります。概ね「HOゲージ用(≒16番ゲージ用)」と謳っているモノは出力電流が大きくて高額です。簡単に言ってしまえば、古い16番ゲージ(≒HOゲージ)の車輛では消費電流が大きいので、出力が大きなパワーパックを用意しないと楽しく遊ぶことが出来ないからです。
一例としては、古い車内照明用の電球は一本辺り0.1A程度消費します。例えば、20m級客車には通常室内灯を三本くらい取り付けますが、一輛辺り0.1A消費する電球を三本取り付けて十輛編成にしたら、たったそれだけで3A必要です。「LED電球ならばもっと消費電流は少ない筈だ」と言えば全くその通りなので、「それならば全部の車輛をLED電球に交換ししちゃえばいいじゃない」と言うのが全く正論なんですが、手持ちの全部の車輛の車内照明を片っ端からLED化するのにはどれだけ手間が掛かることやら、、、。
それは兎も角もモーター一個で1A近く消費するものもあり、それでいながら最近の16番ゲージ(≒HOゲージ)の車輛では車内照明まで含めても1Aも消費しないモノもありますから、手持ちの車輛の消費電力と相談する必要があります。「パワーパックには何A必要か?」と言うのは、使用者の個別の条件によって異なるわけですが、HOゲージ以上の大きさの鉄道模型を前提とすると1Aから2Aは最低限度欲しいように思います。
Nゲージの場合はもうちょっと少なくても済むかもしれませんが、目一杯少な目にしてしまうとモーター付きの車輛を増結する余地が無かったり、遣り繰り算段ばかりに気を使わなければならなくなってしまって面白くないと思うのですが如何でしょうか。但し、多過ぎる容量は残しておいても腐るわけでもないので、迷った時には大き目にしておいた方が良いと思います。自作する前提での話ですが、3A用のパワーパックを作ったら1A用のパワーパックの3倍の費用が掛かるわけでも無いですから。
以上は出力電流を大前提とした話ですが、古いパワーパックで速度制御にレオスタットを使っているパワーパックではNゲージ用とHOゲージ用(≒16番ゲ―ジ用)では、使っているレオスタットの抵抗値が違っています。レオスタット式のNゲージ用パワーパックでは100Ω程度のレオスタットが使用され、HOゲージ用のパワーパックでは30Ωから50Ω程度のレオスタットが使用されています。レオスタットの抵抗値はモーターの内部抵抗に応じたものを使わないとまともな運転ができないですから、Nゲージ用とHOゲージ用のパワーパックではかなり厳密に使い分けないと楽しく遊ぶことができません。
この文章の前半分では出力電流の大小にばかり拘っていますが、それと言うのも最近のパワーパックは電圧制御に半導体を使っていたりするので、速度制御用素子の抵抗値とモーターの内部抵抗だなんだと言う事柄は気にする必要がないからです。個人的にはレオスタットは好きな素子なんですが、私の好みを最前面に押し出す訳にも行かないので初め鉄道模型を使うような方には余りお勧めはできません。
メーターはどうする
Aug 1, 2026.
パワーパックには往々にしてメーターが取り付けられますが、必須と言う訳ではありません。模型を運転すると言う点に限定すれば無くても困りませんが、車輛の状況を確認しながら運転できると言う点ではあるに越したことは無いですし、なによりもメーターは有った方が楽しいです。「有った方が楽しい」とか書くと「次元が低い」と勘違いする変な御仁がいますが、元来が鉄道模型は楽しむためにやっている道楽なので「有った方が楽しい」と言う発想は最も人間の本質的な感情に近いのだと言えます。
普通にメーターを取り付けるとすれば「電圧計」と「電流計」です。
電圧計は回路に並列に接続し、速度計のような使い方をします。実際には大昔のレオスタット式のパワーパックでは車輛に過大電圧が掛かってしまう場合があるので、それを監視して安全に走らせるようにするのが電圧計本来の目的です。
電流計は回路に直列に接続し、車輛の運行状況、整備状況を監視するような使い方をします。やたらに電流計の針が振れるような車輛は、何らかの不具合が隠れている可能性が高いです。運転会でこの種の車輛を見掛けると、かなり高い確率で「その車輛は今日は休ませた方が良くないですか」と言われたりする光景は結構見掛けます。
とまぁ、メーターは有るに越した事は無いのですが、普通の電圧計・電流計だと取り付けの為にφ45程度の比較的大きめの穴を開けたりしなければならないのが面倒です。デジタル式の電圧計・電流計ならばケースに貼り付けるだけで済む事が多いので、こちらの方が工作は簡単です。もっと簡単さを狙うならば、外付け的にテスター(回路計)を運転の都度用意すると言う手もあります。

市販のメーターで、左から電圧計、電流計、回転計です。「回転計」と言うのも電圧計・電流計などと同じ動作原理の単なる「メーター」には過ぎませんから、表の透明カバーを取り外して内部の目盛板だけを取り換えて使うと言うやり方もできます。尤も、針の動き方は電圧計と同じ振れ方をするので、並べて取り付けてしまうと白けてしまうかも知れませんけど。